第37章 番外編 F6 カラ松と捨て犬
主はまた草むらに背を預けて星空を仰いだ。
消え入りそうな声でポツリと呟く。
「…知っていました」
「オマエなぁ…何度言ったら主語を」
「カラ松さんが、かの有名な名門校『おそ松学園芸能専門学校』の生徒さんで、世界に名を轟かせるスーパーアイドル『F6』だってことを…」
「っ!?」
オレはバカだ。
自身の知名度とか、メンドクセー事全てを忘れてコイツと会っていた。
けれどそれはオレだけの話で、コイツは知った上でオレと過ごしていたんだ。
「というか、毎日テレビで見るのに知らない訳がありません」
「…知っていたワリには随分失礼な態度だったな」
「す、すみません…」
主はオレの顔色を伺うように見つめてきた。
「出会った時、あぁ、わたしも取り巻きAのように、あれやこれやとイヤラシい事をされポイ捨てされると思っていました」
「テメーは人の事なんだと…!」
(まぁ、あながち間違ってはねーけど)
「でも、そんな事全然無かったので、わたしは女としてすら見られていないのかと」
そこまで言うと、拗ねたようにプイッと顔を背けた。
オレは、吹き出しそうになるのを必死にこらえる。
「だから、もう来てくれないかも。もう会えないかも。天下のアイドルカラ松様は、他の女を抱くためにご多忙だろう。そう思いながらも浜辺で待ってました」
「さっきから、ワザとオレを怒らせようとしてるよな?」
オレの言葉を無視しながら、主は感想をつらつらと話す。
「でも、カラ松さんは来てくれた。何度も…何度も…——」