第37章 番外編 F6 カラ松と捨て犬
あれからオレは、時間さえあれば主のいる砂浜へとバイクを走らせた。
アイツに会えない日ももちろんあったが、会えるかもしれないという期待がオレのハートを熱くさせた。
それがオレの退屈な日常を抜け出す唯一の息抜きになり、会う度に笑顔を見せる回数が増えていく主の姿は、オレのハートをくすぐったくさせた。
もっと笑わせてやりたいと思った。
(なんかオレ、ガキみたいだな。健気にアイツの所へ通って)
会うといつも、アイツのコミュ力アップの特訓と称して話してばかりだ。
たまに頭を撫でたりはしているが、未だに手を握る事はおろか、キスすらしていない。
肉食系・肉の名が聞いて呆れるぜ。
狙った女はすぐ物にするのがオレ様のモットーだったんだがな。
けどなぜか、主相手だと手が出せないというか…。
アイツを大事にしたいと思う自分がいた。
・・・
砂浜に着くと、バイクのエンジン音でオレだと気づいたのか、主がこちらを向いて遠くから手を振っている。
(音で飼い主に気づくとか、まんま犬だな)
オレはバイクを止めサングラスを外すと、砂浜に座る主の隣に腰を下ろす。
「よう」
「こんにちは。今日は涼しいですね」
「フン、つまんねーセリフ」
「ふふっ」
相変わらず裸足だったが、コイツなりの厚着なのか、今日はデニムに白いニットを着ていた。
モコモコしていて、抱きしめたらさぞ気持ちよさそうだ。
「カラ松さん」
「あ?」
顔を見れば、ニッコリと満面の笑み。
「何だよ?気持ちわりーな」
「すごく…」
コテンとオレの肩に頭を預け甘えてくる。
(ったく、無防備なヤツ)
不器用なように見せかけて、そこら辺にいる、すぐ顔真っ赤にしてオレ様に夢中になるような女より、余程積極的だ。
「すごく、なんだよ?」
「うれしかったんです」
頬を赤らめながら謎の報告をしてきた。
オレは、返事の代わりに赤らんだ頬をつまむ。
「いたいっ!」
「主語がねーとわかんねーっつってんだろ!」
どうやら、まだまだ教育が必要なようだ。