第37章 番外編 F6 カラ松と捨て犬
「主です。カラ松さん」
名前を名乗ると、主はすぐさま視線を海へ戻した。
オレが話しかければ、ほとんどの女はイチコロだった。
みんな頬を染め、オレ様にそのまま心と身体を捧げたもんだ。
それなのに、コイツときたら…。
オレが話しかけてやってるのに、鬱陶しそうにしやがって!
こんな女今までいなかったから、どうにも気になって仕方がない。
オレは隣に座り、また自分から話しかけた。
「なぁ、おま」
「先に言っておきますけど」
「あ?なんだよ?」
同時に話し出すと、なぜかオレが譲っていた。
ったく、なんでこのオレカラ松が見ず知らずの女に気を使わなきゃなんねーんだ!
「家が火事で全焼とか、わたし以外の家族全員一家心中したとか、そういう悲劇のヒロイン要素は一切ありませんから」
「はぁっ!?んな事誰も思っちゃいねーよ!」
なんだコイツ。
突然何言いだすんだ!?
「これは、わたしの現実逃避…ストレス発散なんです。みんな、辛い事や苦しい事があると、朝までわいわい飲んだり、読書に耽ったり、旅行したりして忘れようとするでしょ?」
「フン…続けろ」
「わたしの場合、こうして砂の熱を足の裏で感じながら、ひとりぼっちでここにいるのがそれなんです。別に、死のうと思って海に来たわけではありません」
さりげなく、オレが気にかけていたのを見抜いていたらしい。
いや、単に自意識過剰なだけか?
それにしても、
(なんだ。オレと同じじゃねーか)
ますます気になっちまう。
「今、わたしのこと、危なくてイタイ女だって思いましたね?」
「思ってねーよブス!テメーがイタイならオレも同じだ!!」
「ん?」
なんでコイツ、こんなにマイナス方向に自意識過剰なんだ?