第5章 四男と雨だれ
主人公視点
のぼせないよう水を足してぬるま湯にし、のんびりと湯船に浸かっていた。
気持ちよくて眠気が襲ってきた。
でも、一松くん待たせたら悪いし、そろそろあがろうかな。
と、湯船から出ようと立ち上がったその時、浴室のドアがガラリと勢いよく開いた。
目に飛び込んできたのは、腰にタオルを巻いた一松くん。
「あ…」
「……」
目が合い言葉を失う2人。
見つめ合ったまま立ち尽くしていると、あることに気がついた。
(わたし丸見えだ——!?)
全裸だったのを思い出し、恥ずかしくて湯船に肩まで浸かる。
「びっくりした!急に入ってくるんだもん!」
そう伝えても一松くんの反応がない。
「どう…したの?」
「……」
相変わらず無口だ。
無口だけど、顔を見ると耳まで真っ赤。
「一松くんもお風呂入りに来たの?」
コクリと一度頷いた。
「そっか!ちょうどわたし出るところだったから、じゃあ…」
手で身体を隠し、お風呂から出ようと足を上げた——その刹那。
「うわっ!」
強い力で押されてバスタブに無理やり戻される。
波立つお湯に足を滑らせかけると強く掻き抱かれた。
互いの何も纏わない肌が粘膜のようにピタリとくっつき、彼の速い鼓動がリアルに伝わってくる。
「一松…くん…?」
震える吐息が彼の想いを物語っているようで、胸の奥にツンと甘い痛みが襲った。
一松くんの背中をさするように抱きしめると、こわばった腕の力が幾分か弱まる。
どこか臆病な目つきが、わたしの心を探るように見つめている。
言葉が無くても、彼の想いは、きっと、わたしと同じだ。
「…いいよ」
「…上手くできなかったら…ゴメン…」
珍しく素直な言葉を発してから、一松くんはわたしの唇をそうっと奪った。