第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
「世界中の書物を読み漁り、それなりに知識、教養は身につけてきました。けれど、一つだけどうしても分からない物があるのです。
……それは、主、貴女です」
主は静かに僕の声に耳を傾けている。
「貴女を想うと、病気でも無いのに胸が苦しくなります。貴女の前では、良き主人、いや、良き男として振る舞いたいと、必要以上に緊張してしまいます」
きっと、僕の胸の高鳴りはバレてしまっているのだろう。
けれど、最後までどうか、聞いて欲しい。
「…貴女の笑顔を見たら、どんなに辛いことがあっても消し飛んでしまいます。だけど、貴女が他の人と話しているだけで心がざわつき、そして——貴女を独り占めしたい、誰にも渡したくないと、思ってしまった…」
「…でも、わたしは…何の取り柄もないただの…」
「そんなことありません!貴女は、私を夢中にさせる神秘的な謎に満ちている!」
僕が声を強めると、驚いた様子で顔を上げる。
「貴女には、どんな数式よりも、どんな歴史的文献よりも!私を惹きつける魅力がある!だから、もう二度と『何の取り柄もない』なんて言っては駄目です。次にそんな事言ったらおしおきです!」
そのまま、僕等は見つめあった。
「主、もう、お分かりですね?」
「チョロ松様…わたし…」
「貴女を、愛しています」
目尻に溜まった涙をそっと指で拭うと、主は目を細め微かに微笑んだ。
「わたしも、ずっとずっと、お慕い申しておりました」
「貴女という書物を、私に読み解かせてください」
「…チョロ松様…」
戸惑いながらも、僕に身体を委ねる主を抱きしめ、深い口づけを交わした。