第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
F6チョロ松視点
エジプトから帰国したら、主のコーヒーを飲みたいと、ずっと思っていた。
会えなかったのはたった二日だけだというのに、貴女という存在が、私のブレインをどんどん侵食し、四六時中貴女の事ばかり考えていた。
気がつくとピラミッドの壁に描かれた神々やファラオが、主の姿に変換されてしまうくらい重症だった。
おかしいでしょう?
石板を贈られた時も、一番に頭に浮かんだのが貴女の喜ぶ顔だった。
自室で二人きり、エジプトの土産話や考古学研究に携わった事を沢山話そうと、すぐに思いついた。
好奇心旺盛な貴女は、きっとニッコリと笑顔で私の話に耳を傾けてくれる——そう思うと、会うのを心待ちにしている自分がいたんだ。
けれど、屋敷に帰り、真っ先に目に飛び込んできた光景は、僕の心を打ち砕くものだった。
そう、それは、おそ松兄さんに抱きしめられている主の姿——。
貴女の涙を流し、必死に抵抗しようとしている姿を見れば一目瞭然だ。
兄さんが無理やり抱きしめてきたんでしょう?
僕は、駆け寄る貴女を嫉妬の炎で燃やしてしまわぬよう、必死に笑顔を作った。
僕は今まで、貴女を抱き締めることはおろか、触れることすらせずにいた。
それは、少しでも貴女に触れてしまえば、きっと自分を抑えられなくなるから。
貴女をメイドとしてでは無く、一人の愛する女性としてしか見られなくなってしまいそうだったから。
きっと、おそ松兄さんも僕と同じだったのだろう。
だけど、兄さんは僕よりも先に貴女に想いをぶつけた。
それが悔しくて、僕は自分の心を縛りつけていた鎖を断ち切った。
貴女に触れたい。
貴女を自分の物にしたい。
そう、思ったんだ。
・・・