第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
書庫に本を戻し自室へ戻ると、チョロ松様はソファーにドサリと腰を下ろした。
「ハァ……エジプトからプライベートジェットで十四時間かけて戻り、ヘトヘトだったというのに——」
「十四時間も?長旅、本当におつかれさまでした」
テーブルにコーヒーとクッキーを置きながら頭を下げる。
「主も疲れたでしょう?こんなに部屋を綺麗に掃除してくれて…。ソファーで一緒に一休みしましょう」
「え?よろしいのですか?」
「勿論です」
すぐに掃除した部屋を褒めてくれて嬉しくなり、ドキドキしながら隣に座ると、いつもの柔らかな笑みが出迎えてくれた。
チョロ松様はコーヒーを飲むと、ため息と共に「美味しい」とつぶやいてくださった。
よく見ると、目の下にはうっすらとクマがある。
「チョロ松様…」
「何ですか?」
「本当にお疲れなご様子ですね」と言おうとした瞬間、チョロ松様はクッキーを指先で掴み、わたしの口へそっと運んだ。
「もぐ…っ!あ、ありがとうございます」
「フフフ、そういう困っている顔も悪くないですね」
結局、言おうとした事はクッキーで遮られてしまった。
(何だか…エジプトから帰ってきてから別人みたい)
こんなにチョロ松様からスキンシップを取ってくれる事なんて無かった。
とても嬉しくて幸せだ。
幸せすぎて…。
「わたし、チョロ松様とこうして過ごしていると、忘れてしまいそうです」
「何をですか?」
「チョロ松様はご主人様で、わたしはただのメイドだってことを。住む世界が、違うってことを——」
わたしは、悲しみを誤魔化すように微笑んだけれど、チョロ松様は寂しそうな顔をしていた。