第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
「え……あ…一松…様?」
「それ、こぼれるぞ?」
「えっ!?」
下を見ると、フィルターにお湯が溢れ、コーヒーが表面張力ギリギリまでカップに注がれていた。
驚いて思わず手を動かしてしまい、床にお湯をこぼしてしまう。
「わっ!?もう…わたしってば…!」
「おい、気をつけろ。心ここにあらずな顔をしていたぞ?」
「申し訳ございませんっ!」
みっともなくて顔を直視出来ない。
片付けようとあたふたしていると、ふきんを手渡してくれた。
「手伝う」
「ありがとうございます。でも、あの、自分で片付けるのでもう大丈夫です。ご心配おかけしてすみませんでした!」
「そうか。では様子がおかしかったから見届けさせてもらう」
「え?」
本当に最後まで見届けてくださるおつもりなのか、黙ってずっとこちらを見てくる。
片付けないと、いつまでもここにいそうな気がしたので、急いで床を拭き始めた。
一松様は六つ子の四男であり、なぜかなんちゃら王家の末裔だという噂が世間では流れている。
猫好きでマイペース、どこか掴めない性格をしていて、ミステリアスクールの異名を持つ不思議な魅力のあるお方だ。
そんな一松様は、何を考えているのか読み取れない表情で、床を拭くわたしを腕を組んでじっと眺めていた。