第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
キッチンで朝と同じブレンドを配合する。
コーヒーをドリップすると、香ばしい匂いに包まれた。
(いい匂い。心が落ち着く…)
作業しながら、最近のチョロ松様について気になった事を、わたしなりに考えてみることにした。
・わたしを呼び捨てになった
・わたしが一人でおそ松様の所へ行く時、少しご機嫌を損なわれた
・わたしと話す時にどもる事が増えた
・学術書、専門書、研究書ばかり読んでいたのに、恋愛小説を読み始めた
「……」
(まさか、ね——)
—近すぎて見えない事の方が、案外多いのかもしれないね?—
おそ松様はああ言っていたけれど、もしかして——。
(ち、ちがうちがうっ!!)
一人で頭をぶんぶん横に振った。
そんなこと、あるわけがない。
そんなこと、あってはならない。
わたしは永遠の片思いを誓ったのだ。
この想いを、誰にも知られる事なく胸の中に閉じ込める、と。
ただチョロ松様のお側に仕え、チョロ松様のお力になれれば、それでいいと。
チョロ松様が、わたしに恋愛感情を抱いているなんて、ありえない話だ。
それに、もし——もし万が一、そのような事が起こったとしたら、わたしは色目を使ったと散々非難された挙句、メイド失格で即クビだろう。
そうなれば、もう二度とチョロ松様にお会いできなくなる。
わたしは、胸の中に沸き起こる甘い予感を、必死に抑え込んだ。
だけどすぐ、頭の中がチョロ松様でいっぱいになってしまう。
美しい新緑のように輝く髪、エメラルドグリーンの瞳、知性が滲み出ている端正な顔立ち、研究熱心で聡明な内面、モデルのようにスラリとした長身、そして…時折見せる愛らしい照れたお顔——。
好きにならずにはいられない。
(チョロ松様…わたしは……!)
胸が苦しくなり、手で胸を押さえたその時、
「なにをしてる?」
手に持ったポットを後ろから誰かに掴まれた。