第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
・・・
床を拭き終わり、お詫びで一松様にもコーヒーを淹れると、フーフー冷ましながら飲んでくれた。
「うまい」
「恐れ入ります」
「主」
「はい」
不意に名前を呼ばれ顔を上げる。
目が合えば、全てを見透かしたような瞳がわたしを射抜いた。
「運命とは、時に皮肉で、時に残酷だ」
「え…?」
一松様は、何かに気づいているのだろうか?
(もしかして、わたしの…チョロ松様に対する気持ちを…?)
意味深な発言に思わず言葉を失う。
一松様は味わうようにゆっくりコーヒーを一口飲み、続けた。
「だが、同じ時代に生まれ落ち、同じ時、同じ場所で過ごせる事、それは何物にも代えがたい」
「っ!!」
一松様の言葉が、じんわりと胸の奥に響いた。
「…あなたは、一体…?」
「まぁ、あと俺が言える事といえば、自分の身は自分で守れ、以上だ」
そっとカップを流しに置くと、くるりと背中を向けて歩き出す。
「あの…!ありがとうございました!」
言葉が見つからず、お礼を言うことしか出来なかった。
「それともう一つ」
ポケットに手を入れながらチラリと振り返る。
「チョロのコーヒー冷めているぞ」
「あっ!!淹れ直さないと!」
わたしが慌てふためきフィルターをセットすると、微笑みを一つ残し去って行った。
(同じ時代に生まれ落ち、同じ時、同じ場所で過ごせる事…)
一松様の言葉は、今のわたしには一番の特効薬となったのだった。