第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
わたしは廊下をトボトボと歩いていた。
本当は、早くチョロ松様の元へ戻らないといけないのに、先ほどの出来事に身体が萎縮して思うように歩けなかった。
(きっとわたし、からかわれただけだよね…)
相手は赤塚不二夫財閥の長男おそ松様。世界中の女性を虜にするスーパーアイドルだ。
(忘れてって言われたし、きっと魔が差しただけ。うん、きっとそうだ)
このお屋敷に仕える時に、注意深く恋愛禁止とメイド長に言われていた。
所詮、主人とメイドでは住む世界も違えば、恋愛関係になんて発展するわけがないのだ。
どんなに恋い焦がれても——チョロ松様とは…。
自分に言い聞かせるように頭で独り言をつぶやいていると、二つの人影が話し声と共に近づいてきた。
わたしに気づくと会話が止まり声をかけられる。
「あっ!主ちゃんだ!」
「チャオ!子猫ちゃん」
声の主は十四松様とトド松様だった。
十四松様は五男で、ちょっと天然な所があるお茶目なお方。でも、そんな一面と甘いマスクとのギャップが魅力的で、とてもモテモテなのだ。
ここだけの話、「一万人斬りの王子」という異名を持っている。
トド松様は六つ子の末っ子だ。「キューティフェアリー」なんて呼ばれていて、その名に違わぬ美女顔負けな愛らしい顔つきをしている。容姿だけでなく中身も女子力高くて、わたしなんか手も足も出ない。
男友達より、女友達とワイワイ遊んでいる印象が強い。
「あれ?チョロ松兄さんと一緒じゃないんだね?」
トド松様が辺りをキョロキョロと見回す。
「はい、わたしだけおそ松様のお部屋にお使いで呼ばれたので。あの、わたしってそんなに、チョロ松様といつも一緒にいる印象が強いでしょうか?」
カラ松様にも似たような事を言われたので、少し気になり尋ねてしまった。すると、二人は顔を見合わせてケラケラと笑う。
「アッハハ!そんなの、専属メイドなんだからあたり前田のクラッカーだよ!」
「いやだなぁ兄さん、また昭和のギャグ使って!」
「そ、そうですか?」
(全然会話についていけない…)
でも、二人の明るい笑い声が、わたしの心を軽くしてくれた。