第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
「ごめん、今のは忘れて」
今起きた事に思考がついていかない。わたしは何を話せばいいのか言葉が見つからず俯いた。
「主ちゃん。僕は無理やり奪うなんて事はしない。爽やかジャスティスの名にかけてそれは誓うよ」
「おそ松…様?」
「僕に、チャンスをくれない?キミを幸せにするチャンスを…さ」
顔を上げれば、吸い込まれそうな瞳に見つめられる。
「わ、わたしはただの、ご主人様にお仕えするだけが取り柄のメイドです。ご冗談はよしてください…」
たまらなくなって目を逸らした。
「…そうやって、僕の心からも目を逸らすのかい?僕、本気なんだけど」
「そ、そんなこと!からかわないでくださいっ!」
無礼にも少し声を荒げてしまった。けれど、おそ松様は微笑みを崩さない。
「まぁ、僕も急だったし、今はそう思われても仕方ない。でもね、キミは自分に自信が無いみたいだけれど、それが時には誰かを傷つける事もある。それだけはよく覚えておいて?」
フッと寂しそうに微笑み、わたしの頬を綺麗な指が一瞬かすめた。
(わたしが…傷つける?)
その言葉の意味を考え込むわたしの気を散らすように、頭をくしゃくしゃされた。
「さぁ、そろそろ戻らないとチョロが寂しくて死んじゃうよ?」
おそ松様は立ち上がると、わたしに手を差し伸べて立たせてくれた。
「はい!あの…ありがとうございました!それでは、失礼致します」
「うん、またねっ!」
わたしは丁寧にお辞儀をすると、クリアファイルを持ち、チョロ松様の元へと向かった。
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「ホント、主ちゃんって分かりやすいよ。僕に付け入る隙はない…か」
おそ松は自室で一人、バスローブを脱ぎ捨てた。
「チョロ松も主ちゃんも、どちらも僕には大切な存在だ」
スルリとシャツに腕を通す。
「ねぇ、赤塚先生。僕は、どうしたらいい——?」
問いかけに返事はなく、虚しく部屋に響いた。
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