第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
お風呂上がりのおそ松様は、摘みたての花のようにとてもいい匂いがした。
シルクのバスローブの柔らかな繊維が、わたしの肌をそっと撫でる。
おそ松様は、わたしの肩を抱きながらソファーに座り直した。
男の人とこんなに近づいた事なんて無かった。
しかも相手はおそ松様。勝手に心拍数が上昇してしまう。
「いつも、チョロの世話してくれて、ありがとね」
そう言いながら、大きな手で頭を撫でてきた。
「そんな、とんでもございません。それがわたしに与えられたお仕事ですので…」
「そう。じゃあ、仕事だから一緒にいるの?」
「えっ?そ、それは勿論です!」
「もしも、父さんに頼んで、キミを僕の専属メイドにしても、ちゃんと働いてくれるの?他の子をチョロに配属させても、何とも思わない?」
「……」
思いがけない質問に、言葉を失ってしまった。
チョロ松様に他の専属メイドをだなんて。
どうして、おそ松様はそんないじわるな事を言うのだろう。
「ハハッ、ごめんね?困らせるつもりは無かったんだ——ただ」
おそ松様は、わたしの顔を覗き込む。
「チョロがね…最近少し様子が変なんだ」
「チョロ松様が?」
「うん、キミは何も気づいてないの?」
「はい…申し訳ございません」
わたしは悲しくなった。
一番側にいる時間が長いのにもかかわらず、チョロ松様の変化を見落としていただなんて。
「まぁ、近すぎて見えない事の方が、案外多いのかもしれないね?」
おそ松様は、優しく微笑みウインクした。