第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
「ようブス」
「カラ松様!こんにちは!」
長い廊下を歩いているとカラ松様と鉢合わせた。
カラ松様は六つ子の次男。俺様系だけど、ふとした時に優しい一面を見せる素敵なお方だ。
このお屋敷に来たばかりの頃は、ブスと呼ばれショックだったけれど、今では彼なりの挨拶なのだろうと思うようにしている。
「ん?いつもチョロの後ろを犬みてーにちょこまかとくっついてんのに、今は一人なのか?」
「い、犬!?ええと、わたしだけおそ松様に呼ばれたので、お部屋に向かっているところです」
「ふーん」
カラ松様は、ポリポリと左頬を人差し指で掻きながらハァとため息を一つこぼした。
わたしの心を探るような目つきで口を開く。
「グズでノロマでどんくさいお前に、俺様から一つ忠告しといてやるよ」
グズでノロマ。自覚はしているけど随分な言われようだ。
冗談と言えども、私が動揺し顔を赤くしてるとカラ松様の顔が近づき、そして——
「犬っころじゃ狼に食われちまうぞ?」
そっと、低音のセクシーボイスが耳元で囁かれた。
「そ、それって…」
「フッ、チョロに伝えとけ。てめーの大事な犬なら、ちゃんと鎖に繋いどけってな。何なら、俺が飼いならしてやってもいいんだぜ?」
「もうっ!何をおっしゃるんですか!!」
「はははっ!じゃあなっ」
大げさに笑いながらわたしの頭をポンと撫でると、カラ松様は廊下を曲がって行った。
(し、心臓に悪いよ…)
御曹司であり、高校生でもある六つ子の彼らは、皆かっこよく個性豊かだ。
そして、通称F6と呼ばれ、世界的な人気を誇るスーパーアイドルでもある。
毎日一緒に過ごしているだけで、心臓が持ちそうにないくらいに胸の鼓動が高鳴ってしまう。
皆、自分達の魅力を知ってか知らずか、わたし達メイドをからかうように、甘い言葉を囁き翻弄するのだ。
でも、チョロ松様だけは簡単に口説いたりはしない。
わたしは、そんな彼の、一番近い存在になりたい。
誰よりも近くで寄り添いたい。