第35章 番外編 F6 チョロ松と専属メイドの秘め事(長編)
「お待たせ致しました」
わたしは、書斎兼自室でパソコンと睨めっこをしているチョロ松様の邪魔をしないよう、そっとコーヒーカップをデスクに置いた。
チョロ松様は直ぐに気づかれ、白いシャツの袖を捲りながらこちらへゆっくりと振り向いた。
「あぁ、ありがとう。おや、今日のブレンドは?」
「はい。最近お疲れのようでしたので、アロマを効かせる為にグアテマラをベースに、わたしがブレンド致しました」
チョロ松様は、目を閉じて薫りを楽しんでからカップに口をつける。
「良い薫りだ。今の私のブレインにはピッタリなブレンドですよ。私自身より、貴女の方が私の事をよく分かっているみたいですね」
「とんでもございません」
チョロ松様が眼鏡の奥の瞳を細め、優しく微笑む。
そんな彼の笑顔を見て、思わず胸の鼓動が高鳴ってしまった。
わたしは、尊敬する彼にお仕え出来ることに、心から喜びを感じていた。
だけど、最近では——それ以上の感情も芽生え始めている。
それは、決して明かす事のない気持ち。
メイドの分際では、口にする事も憚られる、秘密の二文字…。