第29章 アンケート投票第2位 注文の多い猫松 前編
ソファーにあったのは、猫耳ヘアバンドとまたしても怪文書。
(ええと、よく乾かした髪にヘアバンドをお着けください?)
無駄に血のような赤でダイイングメッセージ風にするのをやめて欲しい。
彼は絶対にこの演出を楽しんでいる。
(まるで、注文の多い料理店みたい)
お腹を空かせたお客さんに、身体にクリームを塗れだの塩を揉み込めだの、様々な注文を付けて食べようとする西洋料理店のお話。
小さい頃、読んだ記憶がうっすらと蘇る。
ため息を吐いて猫耳を着けると、キィと寝室のドアが開いた。
次はこっちという事だろう。
(だから!怖いってば!!)
鼓動が跳ね上がる胸を手で押さえながら、恐る恐る寝室に入る。
ベッドにあったのは、猫の肉球の形をしたふわふわな手袋と紙切れ。
この短時間でいつの間に用意したのか、最後の注文は脅迫状のように新聞紙の切り抜きを使った文字の羅列だった。
(これが最後です。清らかな手にこの手袋を着けてください。はいはい…)
少し苦戦しながらも手袋を着ける。
(わぁ。肉球って、カワイイかも)
己の肉球に感動し、油断をしていると、
「はーい、いらっしゃい」
「ひゃっ!?」
いつの間に背後にいたのか、後ろから一松くんに抱きすくめられた。