第29章 アンケート投票第2位 注文の多い猫松 前編
「では、ごゆっくりどうぞ…」
料金システムを棒読みし、ドリンクバーのカップを置いて一松くんはいなくなった。
店内を見回すと、客の入りはまばらで一人で来ている人が数人、友人と来たのであろう女の子のグループが一組いるだけだ。
店員は一松くんと女の子二人、店長らしき男性が一人。
猫は六匹いて、わたしの座るソファーの目の前には美しい毛並みのロシアンブルーがいた。
木製の猫用ジムのてっぺんに座っている。
「おいでっ」
小さな声で呼んでみるけれど、ニャーと鳴くだけで目も合わせずすました顔をしている。
(可愛いいなぁ。この、媚びない感じがイイんだよね)
甘ったるいアップルティーを飲みながら、しばらくロシアンブルーを観察していたら、壁に猫の名前一覧表を見つけた。
ロシアンブルーの名前を探すと、
(松子!?随分渋い名前!)
聡明な顔には似つかわしくない、馴染みやすい名前だった。
一松くんと同じ字だなぁなんて考えながら眺めていたら、膝に猫が来たのか、何やら暖かい感触がした。