第18章 お医者さんごっこ 一松
「……」
俯いていたかと思ったら、右手を上げている。
「ん?どうしたの?」
「…熱、計るから」
「どうぞ」
体温計を差し出してもなぜか受け取ってくれない。
「計らないの?」
「……」
「えっと、計ってってこと?」
「……」
無言のまま、察してよ、と言わんばかりの目つきで見つめられる。
(なんだか、最近随分甘えんぼになったなぁ…)
・・・
出会ったばかりの頃は何を考えているのかよく分からなかったけれど、一緒に過ごすうちに少しずつ彼のことが分かってきた。
臆病で自信が無く、かつ寂しがり屋な彼はちょっと厄介で…。拗らせた結果、自分の心に蓋をして、必要以上に兄弟以外の他人と関わるのを拒んでしまっていたけれど、段々とわたしの前で甘えたり弱さを見せてくれるようになってきていた。
だけど、自信の無さに比例して嫉妬深い一面も持ち合わせており、些細なことで猟奇的に暴れ回ることもしばしば…。
でもわたしは、そんな一松くんが大好きなのだ。
全部ひっくるめて大切な恋人なのである。
わたしと過ごす事で、彼の根深い心の傷が少しでも癒えてくれればいいな…と思うのは、いささかでしゃばりすぎなのだろうか。
…長くなってしまったが、つまりは「ツンデレ」である。
・・・
…なんて考えこんでいたら、一松くんが右手をずっと上げていることをすっかり忘れていた。
ものすごく右手をぷるぷるしながらわたしを見つめて待っている。
「ご、ごめんごめん!はーいお熱計りますよー!Tシャツ上げますねー」
わたしがふざけて敬語で話しかけると、一松くんの目が一瞬輝いた気がした。