第78章 ※おまけ ありがとうを君に
四男の場合
チョコを六個持って松野家へ向かうと、玄関の前で野球のユニフォームを着た十四松くんが素振りをしていた。
「あいっあいっあいっあいっ!」
「あの、こんにちはー…」
「あー主ちゃんだぁ!こんにちはー!」
十四松くんは素振りを止めず、バットをぶんぶん振り回しながら目線だけこちらへ向けている。
「それ、大丈夫なの…かな?」
「えーー?」
十四松くんが素振りをするバットに一松くんが括り付けられており、ぶんぶんと何度もわたしの鼻の先をかすめていく。
白目を剥き、よだれをだらしなく垂らし、見るも無残なわたしの彼氏。
「えーとね、あと百本で終わるからちょっと待っててー!」
「は、はーい」
うん、きっと二人だけの世界があるんだろう。
邪魔しては悪いと思い、松野家の前にあるベンチに腰掛け二人を見守った。
・・・
十分後、素振りを終えた十四松くんに部屋へと案内され、カーペットにペタンと座り込む。
なぜソファーじゃないのかというと、気を失った一松くんが横になっているからだ。
「素振り…楽しかった?」
「うん!マジ楽しかったぁ!一松兄さんが遊んでくれたから!」
遊んだというより拷問に近いような気がするのはわたしだけだろうか?
「ごめんね主ちゃん、一松兄さん、素振りの後はいつもこうなんだ」
「あの、あまり無理させない方がいいと思うんだけどな?」
「でも出かけようとしたら、一松兄さんが自分でバットに身体をぐるぐる巻きにして遊ぼーって」
(一松くん…)
これ以上は詮索すまいと自分に言い聞かせ、バッグから黄色い向日葵が施されたラッピングのチョコを取り出す。
十四松くんに手渡すと、頭の上に乗せながら歓喜の声をあげている。
「やったあぁぁあ!!家宝にすっぺーー!!」
「あははっ!ちゃんと賞味期限内に食べてね」
しばらく手をクネクネさせてヘンテコなダンスを披露していた十四松くんだったけれど、急にピタリと踊りを止めて声を掛けてきた。