第78章 ※おまけ ありがとうを君に
(仕事を始めてもおそ松は変わらないな…)
就職してからチビ太の家を出て、オレはボロアパートで一人暮らしを始めた。
就活中世話になったのもあり、暇さえあればこうしてチビ太のおでんを食いに頻繁に通っていたのだが、まさかバレンタインに一人でおそ松がここに来ているとは思わなかった。
仕事で疲れているのか、ウトウトと今にも寝てしまいそうになりながらも、主との出来事をダラダラと話している。
おでんをつつきながらそれに耳を傾ける………オレ。
それにしても羨ましい。
誰もいない部屋に帰るといつも思うんだ。
オレの帰りを待つ恋人がいれば、どんなに幸せだろう…と。
玄関の扉を開けた瞬間、夕飯の芳しい香りが鼻腔をくすぐり、エプロン姿のハニーが出迎えてくれて、そして…定番のアレだ。ごはんか風呂かそれともセッ的なアレをもじもじしながらオレに尋ね、そんなキュートなハニーを思わず抱きしめてから、あんなことやこんなことを…——。
「ちょっとちょっと、急に泣き出して何?イタイ通り越してホラーだよ〜」
「フッ、今夜のおでんは目にしみるな」
「てやんでぇっ!オイラのおでんは目に入れても痛くないくらい可愛いぞバーロー!」
「わ、分かった!分かったからその物騒なおたまを下ろせ!」
こんなあつあつな汁を目に入れられたらたまったもんじゃない。
「話は変わるがおそ松、お前早く主に会いに行かなくていいのか?」
「へ?なんでー?」
「なんでも何も、今日はバレンタインだぞ。恋人と甘いひとときを過ごしたいんじゃないのか?」
そう言うと、それまで酔い潰れていたのに、おそ松はグラスを置いて勢いよく立ち上がった。
「やっべー!!会う約束してたの忘れてたぁっ!!」
「オイラの言う通りだったじゃねーかてやんでぇバーロー!!」
「思い出させてくれてサンキューな!チビ太ー、俺の分カラ松につけといてー!」
去り際に「じゃーな」と一言だけ告げ、おそ松は大急ぎでフラつきながら走って行った。
・・・
「……え?なんで?」
「オメェらって、仲が良いのか悪いのかよく分かんねーな」
「……離れても、クソ政権は健在か」
財布を開くと、諭吉が哀愁を漂わせ、訴えかけるような眼差しでオレを見ていた。
・・・