第74章 ぼくだけの姫君 四男END
決定的瞬間を見られてしまった。
もう話しても信じてくれない。
ホントのホントにさよならだ。
「あ…あのね一松くん」
「おいクソ犬……人の女に気安く触んないでくれる?」
「えっ?」
一松くんは予想外な言葉を発すると、恥じらいも見せずにわたしの手を握りしめた。
「アナーキーさん…見てたんスね」
「は?アナ何だって?喧嘩売ってんの?」
「……っ」
一松くんの気迫に圧倒され、言葉を失う犬飼くん。
「あ、あんたが主さんを傷つけたから!だから俺が支えになりたくて…!あんた、主さんがどんだけボロボロになってるか知ってるんスか!」
「……んなのわかってる。だからこうして謝りにきたんだろ。つーかお前邪魔」
「はぁっ!?」
まるで別人な彼に驚き見つめると、バツが悪い顔をしながら、そっと涙に濡れた頬を撫でてくれた。
そして再び、攻撃的な視線が犬飼くんを突き刺す。
「ククッ、クソ犬には感謝しないとなぁ?テメーのおかげで色々と勉強になったんでねぇ。じゃあな、負け犬」
「なっ!?待ってください!主さんっ、主さんはアナーキーさんじゃなく俺のことを!」
「ごめんなさい」
「即答…っスか」
犬飼くんはドサリと地面にへたり込んだ。
犬の尻尾があったならば、きっと尾を足の間にしまって降参しているだろう。
「……主、ちょっと話あるから」
「う、うんっ」
力強く手を引かれ家へと向かう。
一度だけ振り向き犬飼くんに頭を下げてから、一松くんの指とわたしの指を絡ませた。
もう決して離れぬよう、力を込めながら…。
「俺、ただのかませ犬じゃん…」
犬飼は、自分の宿命を呪った。