第74章 ぼくだけの姫君 四男END
涙を見られたくなくて顔を背けたけれど、既に遅かった。
わたしを見てワタワタする犬飼くん。
「す、すんませんっ、泣かせるつもりじゃなかったんスよ!!」
「ちが…うっ!勝手に…ごめん…気にしないでっ」
「気にしますって!!」
犬飼くんは、帰ろうとするわたしの腕を掴み、
「えっ」
そのまま抱きしめた。
突然のことに身体がすくんで動かない。
「い、いやっ!やめて!!」
「ごめん…主さん。我慢出来ません」
「離して…っ!」
「ムリ。泣き止んだら離します」
知らない匂いに包まれ、心がざわつく。
違う。
わたしが求めているのは、この匂いじゃない。
「ねぇ、俺にしてください。俺、これでもモテるんスよ?いっぱい幸せにしてあげますから」
「…だめなの…一松くんじゃないと…」
逃れようとグッと腕に力を込めて胸板を押したけれど、ビクともしない。
一松くんにこんな所見られたら、今度こそ本当に離れて行ってしまう。
嫌われてしまう。
悔しさと悲しさで涙が止まらない。
「離してって言ってるでしょっ!!」
「俺を選んでください!だって俺、許せないんです!こんなに素敵な主さんを傷つけるヤツなんか、絶対に許せない!!」
「スイマセンね、そんなヤツで」
「う、うわぁっ!?」
背後から突然話しかけられ、驚いた犬飼くんが腕を解いた。
「一松…くん!?」
振り返れば、ポケットに手を入れながらニタニタと不敵に笑う一松くんがいた。