第74章 ぼくだけの姫君 四男END
最後に寄ったパチンコ屋脇の路地裏。
そこに、彼はいた。
物憂げな背中が、しゃがんでダンボールを見つめていた。
「一松くん」
「……」
「探したの…会いたかったから」
わたしに警戒したのか、ダンボールから猫が飛び出し路地裏の奥へと消えて行った。
「あーあ、逃げた」
立ち上がる背中。
振り向けば自嘲気味に笑う悲しげな笑顔。
「ケッ、探した?アイツと会ってたんだろ?」
「…何言ってるの?仕事の後ここまで」
「とぼけんなよ」
ビルの壁に身体を押さえつけられる。
「痛っ!」
「いつもこんな時間まで仕事してないでしょ?あのクソ犬と随分仲よさそうじゃん?ねぇ?」
「っ!」
ブラウスのボタンに手をかけられる。
その手は微かに震えていた。
「何してるの!?やめてっ!」
「へぇ?今まであいつとイチャイチャしてたくせに、おれとはしてくんないの?」
「ちがうっ!一松くんを探しててこんな時間に…!」
「は?さっきまでクソ犬と話してただろ!」
冷たい瞳がわたしを睨む。
「たまたま会っただけだよ!だからお願い!離して…!」
体重をかけながら押さえつけられているので身動きが取れず、されるがままボタンが外れていく。
力が抜け、肩にかけていたトートバッグがズルリと落ちた。
「や…だぁっ!」
「おれさ…分かったよ。なんでお前がおれなんかと付き合ってんのか」
片手でパチンとホックを外され胸が露わになった。
すぐ側で家路を辿る足音が聞こえている。
恐怖と恥ずかしさで涙が溢れる。
「こわ…い、どうして…こんな…」
「お前さ…おれといると優越感に浸れるから付き合ってんでしょ?」
「バカなこと言わないでよ!」
どうしてそんな悲しいこと言うの?
「クズといれば自尊心が満たされるからだろ!自信なくしてもおれを見れば自分の方がマシだって思えるもんなぁ!分かったよ!お望みならとことんクズになってやるよ!!」
「っ!!」
首筋を舌がなぞった時、肩に出来た赤いあざを見て、一松くんの動きが止まった。
「なに…これ」
あざを親指で痛いくらい押される。
「い…たいっ!」
「これなんだって聞いてんだよ!」
えぐるようにぐいぐい押され、痛さで声が漏れる。