第74章 ぼくだけの姫君 四男END
「犬飼くん、いたい…よ」
「あ、あぁっ!すんませんっ、つい!」
慌てて手が離される。
背の高い彼を見上げると、顔を赤く染めていた。
「どうしたの…?」
「あの…俺、歳下で頼りないかもだけど」
今までの彼からは想像もつかない、真剣な瞳がわたしを見つめる。
「主さんが辛い時、俺でよければ話聞きます!恋愛相談でも、愚痴でも、なんでも聞くからっ!!だから…」
(あれ…今、呼び方が——)
戸惑うわたしを見て、犬飼くんは困ったように微笑んだ。
「そんな寂しそうな顔しないで。元気だしてください。俺は、主さんが…その………」
「犬飼くん…?」
名前を呼ぶと、ボンッと湯気が出る勢いで耳まで真っ赤になった。
「しっ失礼しますっ!!」
話途中だったのに、犬飼くんはペコリと頭を下げると、そのまま逃げるように踵を返し帰って行った。
一人取り残され、ぽつんと立ち尽くす。
突然の事に驚きを隠せずにいた。
犬飼くん、もしかしてわたしを…?
いや、まさかね…。
——でも。
(元気づけてくれてありがとう…)
胸の中でつぶやくと、寂しがり屋な猫を探して路地裏へと先を急いだ。