第74章 ぼくだけの姫君 四男END
仕事を終えたわたしは、猫缶を持って路地裏へ寄り道した。
一松くんに会えると思ったけれど、あちこち回ったのに見当たらない。
腕時計を見るともう夜の九時を過ぎていた。
(さすがに…この時間じゃあ家に帰ってるかな)
最後に思いついたのは、わたし達が付き合うキッカケになったパチンコ屋の脇にある路地裏。
いる保証なんてないけれど、無意識に足はそこへ向かっていた。
・・・
「youさーん!」
商店街を歩いていたら、聞き覚えのある声がわたしを呼んだ。
前を向くと、犬飼くんが手を振りながら笑顔でこちらへ向かってくる。
手にはコンビニの袋。
夕飯でも買っていたのかもしれない。
「まだ帰ってなかったんスか!そんな捨て猫みたいな顔してどうしたんです?」
歳下のくせに、ぽんぽんと頭を撫でてくる。
「捨て猫、か…。今ね、家出猫を探してたの」
「猫飼ってたの?」
「まぁ…そんなとこ」
「そんなとこねぇ。俺でよければ手伝いますよ?」
猫缶が入ったペットショップの袋をチラ見して、猫を探しているという言葉を信じてくれたようだ。
「いいの。臆病だから、わたしじゃないときっと逃げちゃう」
「でも、こんな時間に一人で探したら」
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくね。じゃあ」
「ちょっ待てよ!」
歩き始めたその瞬間、犬飼くんに腕を掴まれた。