第73章 ※カラ松のお年玉
「主、ちょっと向こうの公園まで行くから付き合ってくれる?」
「おそ松くん、ねぇ、それよりも…」
「あ、安心して!キミに危害は絶対に加えないよ!!さぁ、あの木の下に避難して!」
「いやそうじゃなくて」
ダメだ。
みんな興奮状態で全然話を聞いてくれない。
「ケッ、木っ端微塵にしてやるよ」
「あいっ!あいっ!あいっ!」
「十四松兄さん、人ごみで素振りはやめて」
闘志を燃やし、鳥居をくぐり神社から出ようとする五人。
この状況はよく分からないけれど、新年早々喧嘩はよくないというのはよく分かる。
意を決して、五人の前に立ちはだかった。
「ねぇ待って!!」
ピタリと止まる五人の足。
「せっかくみんな一緒なんだし仲良くしようよ?」
「ワリィ、男には譲れない戦いってのがあるんだ」
「おみくじ…引きたいな」
「………」
俯くおそ松くん。
上目遣いをしながら返ってきたのは意外な言葉。
「……だって、カラ松だけずりーんだもん」
「えっ?ずるい?」
「あいつだけ彼女作って同棲なんかしちゃってさー」
口を尖らせ拗ねている。
小学生と話している錯覚を覚えたが、目の前にいるのは間違いなく成人男性だ。
「そうだ、大吉…」
おそ松くんは何か思いついたように手をポンと叩いた。
「大吉引いたら、ほっぺにチューしてくれる?」
「なっ!?」
「そしたら俺たち、殺り合わないで素直におみくじ引くからさ!」
「僕は賛成!平和的解決だね!」
ニカッと笑うおそ松くんとチョロ松くんが、さっきまでとは打って変わり握手をしている。
(ど、どうしよう…)
返事を待つ五人の目が突き刺さる。
ほっぺにチューは難しい注文だけれど、殺し合いの喧嘩は避けないといけない。
…わたしが取れる手段はたった一つ。
「……前向きに…検討します」
とりあえず曖昧な返事で誤魔化した。
怒るかと思ったけれど、わたしの言葉を聞くや否や五人に笑顔が戻る。
肩を組み、仲良くおみくじ売り場へと向かったので、ひとまず胸をなでおろし、後ろを追いかけて歩いた。