第11章 うつ向く
初めての試合を無事に終えた。
初勝利。
皆、嬉しそうだ。
もちろん、私も嬉しい。
片付けを済ませ、帰宅のために駅へと向かう。
行きとは違い、拭いきれないような不安感を感じることもなく電車に乗り込めた。
バラバラではあるが、座席がいくつか空いている。
「座るか?」と隣に居る木吉に聞かれたが、私よりも選手の皆の方が疲れている。
「私はいいから、皆が座って」
「そうー?じゃぁ、遠慮なくー」
先に腰をおろしたのはコガだ。
それぞれが、空いている場所に腰をおろした。
もう一つ、空席がある。
立っている水戸部に「座って?」と問いかけたが、フルフルと首を振られた。
私を指差す。
「私に座れってこと?」
コクンと頷いた。
「でも、水戸部の方が…」
言い切る前に、また首を横に振られた。
ちょっと心配そうに眉を下げている。
行きの事を気にしてくれているんだろうか?
「心配…してくれてるのかな?ご、ごめんね。迷惑かけちゃって…。私もどこか空いたら座るから、先にどうぞ?」
また、ブンブンと首を振られてしまった。
そんな事を一駅分も繰り返していたらしい。
次の駅のアナウンスが流れた。
互いに譲り合う自分達の行動が何だかくだらなくて、顔を見合わせて笑う。
駅に到着して、扉が空いて、
お婆さんが乗ってきたので、私達は少しずれて席を譲った。
閉まった扉に凭れるように立って、来たときと同じく窓の外を見ていた。
向かい合わせの位置に立った水戸部も同じく、窓の外を見ている。
会話はないが、居心地は悪くない。