第11章 うつ向く
引かれた方向に身体が動く。
バランスを崩して倒れそうになるが、腕を引いた手に支えられた。
「…嫌っ」
小さな声で抵抗を示すと、パッと手がはなれる。
遠慮がちに、ツンツンと肩をつつかれた。
ぎゅっと瞑った目を開ける。
み…とべ…
眉を下げた水戸部が居た。
胸の前で両手を左右に振る。
『何もしない』と言っている気がする。
こちらを見て首を横に傾げる。
『大丈夫?』と聞かれているようだったので、
コクンと頷た。
水戸部が後ろを指差す。
身体を反転させると、扉の窓からビルや家が流れていく景色が見えた。
『外をみていろ』と言うことだろうか…
いつもみたいに水戸部の真意を確認したくて聞き返そうとしも、上手く声が出せない。
自分勝手にそう解釈して、視線を窓に向けたまま、扉に手をついた。
水戸部の手が、あやすようにポンポンと背中を叩く。
その手が心地よくて…
お兄ちゃんがいつもしてくれている『大丈夫』と同じで…
水戸部は何も知らないはずなのに、『大丈夫だよ』と言われている気がして…、
そのまま、少し目を閉じた。
冷えた身体に温かさが戻っていく。