第9章 始める
マンションまでを木吉と歩く。
いつもは手前の角で別れるけれど、今日は「家まで送る」と言われた。
木吉の好意に素直に甘えておく。
「大丈夫か?」
「え?」
問われた意味が解らず聞き返した。
「お兄さんと別れてから顔色があまりよくないぞ。大丈夫か?」
「あっ…。うん。大丈夫だよ」
気がつかなかった。
思い出したわけでもないのにな…。
一人で過ごす事が自分で思っているよりも辛いのかな?
そんなんじゃ、ダメなのに…。
「そうか…」
そこから、沈黙が続く。
いつも、バスケの話をしながら歩くのに、珍しい…。
「あのさ、さっきの話し…」
木吉が口を開いた。
「さっきの?」
なんとなく何の話かはわかっていたが、なんだか気まずくて、聞き返してしまった。私の悪い癖だ。
「…ほら、『無冠の』ってやつ…」
「あの、ごめんね。本当にごめんなさい」
「いや…。いいんだ。怒ってるわけじゃない…。あんな風に言われたの初めてで、ちょっと嬉しかったんだ」
「だから…」
言葉が途切れたので、顔を木吉の方へ向けた。
木吉と目が合う。
「ありがとうな」
そう言って笑った。