第9章 始める
その日、部活を終えて皆で校門へ向かうと、一台のバイクが見えた。
お兄ちゃんだ。
今日は、バイトも練習も無い日だっけ?
迎えにきてくれたのかな?
こっちに向かって手を振っている。
「「「こんばんは」」」
皆のあいさつにお兄ちゃんも「こんばんは」と返して目線が木吉を向く。
「あのさ、前の時には気づかなかったんだけど、君が『鉄心』?」
木吉の顔が歪んだ。
「お兄ちゃん、違うよ!木吉の名前は『鉄平』だよ」
二人の間に入り込むと、周りの空気が固まる。
日向が「陽向、マジか…」と呟いた。
この様子からみて、どうやら私は、変なことを言ってしまったみたい…。
「違うよ碧。名前を聞いたんじゃなくて、『無冠の五将の鉄心か?』って聞いたんだ」
「ムカンノゴショウ?」
『もうちょっと勉強しような』
そんな意味を込めた手で頭をポンポンとされた。
「『ムカン』って『冠が無い』って書くんだ」
いつまでもハテナを浮かべている私に伊月が小声で教えてくれた。
後ろでは「その名前は好きじゃないんです」と言う木吉の声が聞こえる。
「どうゆう…こと?」
「そのままの意味だよ。木吉を含めたその5人はすごく上手い。でも、俺らの一個下には天才的に上手い奴等が居て、ソイツらには勝てなかった。だから『冠が無い』つまりタイトルを取ったことがないって事。」
ど素人の私にも分かりやすいように噛み砕いて説明してくれた。
「な、なんか…失礼な名前…」
私の呟きに皆の視線が集まる。
「えっ?」と伊月が聞き返した。
「『冠が無い』とか、なんで、そんな名前をわざわざつけなきゃいけないんだろう?」
皆がぽかんとしている。