第61章 向き合う
「何してんたんだよ。おせーよ」
と、扉から顔を覗かせる清志くん。
反射的に身体に力が入る。
「何…で?」
「来ちゃ悪ぃかよ」
「…そう、じゃなくて…」
続きが言えなくて、下を向いてしまった私。
「お前、泣いて…」
「違うの。何でもない…」
明らかに嘘だとわかるの私の否定に、
清志くんは「…寒いだろ。入れ」と私の腕をぐいと引いた。
「離して…」
パシッと清志くんの手を払い顔を上げると…
「碧、落ち着け」
「なんで…居るの?」
「あぁ。ここの合鍵なら家にあるし、お前の顔色が悪そうに見えたから心配で来ただけだ。航も居ねぇし…」
いつもより柔らかい物言いで、そう呟いて彼は頬を掻く。
(あっ…)
心配して来てくれたんだ…。
そうだった。
この人は本当は優しいんだ。
いつもみたいに眉間に皺を寄せて怒るんじゃなくて、こうやって、ちゃんと理由を話してもらえてわかった。
はじめから、清志くんの行動の意味を、言葉の意味を考えていれば苦手に思うことなんか無かったのに…。
今まで…ちゃんと話さなかったのは、理解しなかったのは私の方だ…。
「そっか…ありがとう」
そう笑って、靴を脱いで足を進めた。