第55章 彷徨う
鳴り響くケータイを見て出るのを躊躇った。
【着信 清志くん】
(切れてくれないかな?)
待ってみるけれど、いつまでたっても着信音は切れない。
そして、切れたと思えば、また鳴り響くという繰り返し。
このまま、これを続けたら、清志くんは家に来るだろう…。
逃げ道は無いことを覚って思いきって通話ボタンを押した。
「…もしもし…」
『もしもし、碧…』
電話の向こうから聞こえる清志くんの声は、耳に届いているのに頭を通りすぎる。
『おい…。聞いてんのか?』
その言葉で我に返って「ごめんなさい」と呟いた。
電話口から『なんでお前が謝るんだよ…』と聞こえる。
『碧…。悪かった…』
会場での事がまた頭によぎってケータイを耳から離そうとすれば、
『おい!切るなよ。聞け‼』
叫ぶような清志くんの声。
何故、私が怒鳴られるのか?
何故、清志くんは怒っているのか?
それがわからなくて、
つい涙が出そうになると、
『頼む。切るな…』
今度は辛そうな声が聞こえた。