第53章 揺さぶる
「はぁー…。お前な…」
清志くんのため息が聞こえたかと思えば、視界がオレンジに変わる。
「き、清志くん!?」
ぎゅうっと苦しい位に身体にかかる力。
それとは別に、ポケットでケータイのバイブが着信を知らせているのにも気づいて身を捩った。
「ねぇ、離して…電話…」
「黙れ…。動くな…」
それは、今までに聞いたことの無い声色で…
抱きすくめる腕にも更に力が加わって…
私は抵抗をやめた。
「お前。まじで…。何で…秀徳来なかった?」
問いかけに答えることが出来ない。
だって、私は電車に乗れなくて…
否…たぶん、裕ちゃんや清志くんと一緒なら乗れるんだろうけど、
でも…
そんな事したら…二人に迷惑掛けちゃうし、
だいたい、清志くんは、私が電車に乗れなくなったのは自分のせいだと思ってるし…
それなのに、私が毎日一緒に通学したら、
きっと、清志くんは気にするだろうし…
秀徳に通うとなると、また、伯母さん達にもお世話になっちゃうし、
そんなの、申し訳なくて…。
それに、せっかくお兄ちゃんが誘ってくれて…
だから…、
だから、私は誠凛に…。
頭の中のぐちゃぐちゃを上手く伝える方法が見つからなくて、ぎゅと目を瞑る。
「なぁ、碧。俺らが勝ったって…。洛山、倒したって…。誠凛も決勝に進めば、お前は…。もう、俺の応援はしてくれねぇんだろ?何でだよ…。やっと…お前が…」