第53章 揺さぶる
清志くんに連れられて、会場を出た。
ちょっと、いつもと様子が違う。
「どうしたの?」
「…ああ。まぁ…」
歯切れが悪い。
「清志くん?」
「次、洛山なんだ…」
「えっ?」
「準決…洛山なんだよ」
何を言っていいのかわからず、ただ、清志くんを見ていると、「やっぱ知らねーのかよ」と頭を掻きながら笑った。
ちょっとムッとした。
「知ってるよ。高校最強でしょ?」
そう言って清志くんの手をとる。
自分の両手で清志くんの手のひらをはさんで、
おでこにつけて、
「清志くんが怪我しませんように…」
「秀徳が勝てますように…」
そう、呟いた。
顔をあげると驚いている清志くんの顔が見える。
「覚えてる?子どものときのおまじない」
問いかけても反応が無い。
お兄ちゃんが中学になった年だから小学2年だったかな?
運動会の前日、運動が苦手な私に、
『碧が転びませんように。泣きませんように』と、お兄ちゃんがしてくれたおまじない。
側にいた清志くんも同じ様に、私におまじないをしてくれた。
私も二人のを真似して、清志くんにおまじないをした。
『かけっこで一番になれますように…』
子ども騙しなおまじないだけれど、
誠凛のマネージャーである私は他校の選手である清志くんにできる事は無いに等しい。
だから…
従妹として、少しだけ…。
こんな子ども騙しな事ではあるけれど、力になれないかな?と思った。
誠凛に居てわかったんだ。
『部活の時間』と言う一言で片付けてしまうにはこんなにも惜しい事。
目標に向かって頑張る充実した日々の尊さ、
チームメンバーとの絆、
一試合、一試合にかける思いの強さ、
本当にキラキラした大切な時間だって事。
清志くんは、ずっとこんな時間を過ごしていたんだって事。
ましてや、この大会は清志くんにとって最後だから…。
(忘れちゃったかな?…)
ちょっと不安になって、挟んだままだった手を離した。