第52章 手当たる
ノックをしようとして手を止めた。
「そばにいてくんね」
ドアの向こうから木吉の言葉が聞こえてしまって、一度後ずさる。
(タイミング、悪かったかな…?)
ふたりが言い合うような声が聞こえてきて、
少し間が開いて、リコが出てきた。
「あっ、碧。栄養補給して休ませて。時間まで鉄平についててね」
コクンと頷いて扉を開ける。
「木吉…」
「おう、碧か?」
背中を上にしてベットに横たわる木吉はぐったりしている…。
「大丈夫?身体冷えるから、上着着た方がいいよ。手伝おうか?無理なら掛け布団かけようか?」
私の問いかけに、「悪いな…」とのっそり起き上がった。
大きな背中を支えて、上着に袖を通すのを待つ。
「ありがとな。大丈夫だ」
そう言われたので支えていた手を離せば倒れ込むように木吉の身体はベットに沈んだ。
だらりとベットから下がっている木吉の腕をベット上にそっと戻す。
目を閉じているその顔に向かって「ありがとう」と呟いた。
聞いていなくていい。
そう思ったのに、「何がだ?」と木吉が私に問いかける。
「えっ?お、起きてたの?」
「まあな。で、何がだ?」
「バスケ部に誘ってくれてありがとう。ちゃんとお礼言ってなかったなと思って…」
顔を半分枕に埋めたまま、木吉が笑った。