第52章 手当たる
「ごめんね。起こして…。気にしないで」
なんだか変なタイミングで伝わってしまった気がして、謝罪を口にすると、
「碧、変わったよな」
呟くように木吉が話し出す。
「俺もバスケ始める前はデカイ身体がコンプレックスだったんだ。だから…碧の気持ち、なんとなくわかるんだ」
チラリと目線だけでこちらを見据えた。
いつだったか…
そう、確か…
去年の夏休み明けに、
友人から言われた言葉を思い出した。
『木吉くんは碧ちゃんの事見てたから』って言ってた気がする。
彼女は、それが、木吉から私への好意だと思ったみたいだけど、
木吉は自分と同じコンプレックスを持ってる私を、ずっと気に掛けてくれていたんだ。
もちろん友人として。
今更ながら、彼女が言っていた言葉に妙に納得をして、
そして…
目の前の彼に感謝の気持ちで一杯になった。
「よかったよ。入学式の時の事を思えば今の方がいい。まぁ、あれはあれで、見てて飽きなかったけどな」
そう言って、また穏やかに笑う。
挙動不審だった自分を思い出して、ちょっと恥ずかしくなった。
「変わったのかな?だったら、バスケ部の皆のおかげだし、誘ってくれた木吉のおかげだよ。…そんな事より休んだ方がいいよ」
はぐらかす様にそう言って、木吉から目線を外す。
薄い緑のパーテーションや、白い天井が視界に入った。
「そうだな」
木吉の声がして、また目線を戻せば静かに目を閉じていた。
(本当にありがとう。あんまり無茶しないでね)
口には出せないけど、心の中で呟いた。