第40章 沈む
部活前に『送れない』と凛は言っていた。
だから一人で帰る。
そのはずなのに…
着替えを済ませて校門まで歩くと、凛の姿が見える。
「先に…帰るんじゃ…」
側に寄って問うと、彼は首を横に振った。
私の腕をつかみ歩き出そうとするので、
「凛?お家…大丈夫なの?」
再び問いかければ、ぎゅっと腕を掴む手に力が入る。
不機嫌な、でも少し寂しそうな様子に、
それ以上は何も聞かず素直に歩き出した。
こっちを見てもらえないのが辛い。
掴まれた腕が痛い。
家族想いの彼に、家の事を放り出させてしまった…。
その事が、なにより…心苦しい。
「凛、ごめんなさい…。ちゃんと話すから…。だから、いつもみたいに繋いでくれない?」
半歩前を歩く凛に話しかけてみるけど…
反応はない。
歩幅を合わせる事もなく、スタスタと前を向いて歩いて行く。
「凛。ちょっと…痛い…よ」
小さな声でそう言うと、
我に返った様にハッとした表情をして腕から手が離れた。
私の手のひらがぎゅっと包まれる。
「ごめんね。ありがと…」
眉を下げたまま、凛は私を見ている。
「…さっきのね…嫌な事があったわけじゃないの。自分が情けなくなっただけ。だから、あんまり言いたくなくて…。ごめんね。私が何にも言わないから怒ってるんだよね」
凛は、隠し事とか秘密を物凄く嫌う。
『もっと、頼って欲しい』
前にそう言っていた。
だから、たぶん、
『なんでもない』と言った私に怒ってる…。
そう思った。
「凛…」
繋いでいない方の手で凛の袖を摘まんだ。