第40章 沈む
グラウンドの端の、いつもとは別の場所でジャグを洗った。
普段は微かにしか聞こえない、野球部や陸上部の声が、今はすぐ側から聞こえる。
部室へと戻る、私の足取りは重かった。
カタカタカタ…。
規則的に流れる空のジャグの音はとてもゆっくり。
それでも…
ふわふわと漂う様な、モヤモヤした気持ちとは裏腹に、私の身体は難なく部室のドアの前にたどり着いた。
トントントン。
2年生達はまだ残るとは言っていたが、誰かの着替え中に入るわけにはいかないので、誰も居ない事を祈りながらノックをする。
ガチャリとドアが空いて、出てきたのは凛。
正直、今は一番顔を会わせたくない人。
私が泣き腫らしたのはあきらかで、顔を見るなり『どうしたの?』と首を傾げる。
「これ、片付けて欲しいの」
下を向いたまま、顔も上げず、何も答えず、籠を渡した。
凛が戸惑いがちに片手で受け取るが、もう片方の手で私の目元を撫でる。
『どうして泣いてたの?』
そう聞かれてるのはわかってる。
だけど…
情けない自分を知られたくなくて、
「なんでもないの。大丈夫」
と答えた。
顔を上げなかったから、凛がどんな顔をしているのかは分からない。
少しの間があって、目元から手が離れて、部室の扉がバタンと閉まる音がした。