第37章 行き交う
朝食後、リコがスキップをして出て行った時点で嫌な予感はしていた。
「今日から体育館練習は合同よ」
良い顔をして言うリコ。
私達が利用している宿は、秀徳高校も毎年利用している宿らしい…。
そうなれば、当然、合同の相手は秀徳高校だろう。
目の前に居る、顔を見たことのある程度の集団の中によく知った顔がある。
清志くん…。
清志くんは、私を見つけると目を見開いて、眉間にシワを寄せて…
それから、そしらぬ顔でチームメイトの輪の中に入っていった。
人数の都合なのか、なんなのか、他校の事情はよく分からないけれど、裕ちゃんの姿は見えない。
合同になって人数が多いのに、そんな事を考えて準備の手を止めてしまった私。
何時もより時間がかかってしまう。
「碧、手伝おうか?」
体育館の中からリコの声がした。
外の水道に居た私は顔だけ覗かせて、「大丈夫。もう少し」と返事をし、気持ちを入れ直そうと一度姿勢を正した。
すると、先程の人物がスタスタとこちらに寄ってくる。
清志くんだ。
さっきの雰囲気からして、きっと怒られるんだろうと身構えた。
「碧」
呼ばれる声に反射的に身体が跳ねる。
「何だよ…」
不機嫌そうな声に『ごめんなさい』と言いかければ、
「こっちの分までやらせて悪いな。よろしくな」
そう言って、
ニカリと笑って、私の頭をなでた。
思ってもない言葉にきょとんとする。
「何、ぽけっとしてんだよ」
顔を覗き込むように身を屈めた清志くんは、
コツンと私の額を小突き、
「これ、持ってくぞ」
既に済ませてあるものを手に取って体育館の中へ入って行った。
若干の戸惑いの中、我に返って、
「ありがとう」と清志くんの背中に向かって言うと、
振り向かずに手だけあげて答える。
残りの物も、手早く済ませて私も体育館内へ入って行った。