第33章 補う
「あ、あのさ、火神…」
「うっす」
返事はするが火神の不機嫌は直らない。
「教えてもらう態度じゃないでしょ‼」とリコがハリセンを飛ばそうとするので、なんとか宥めて皆に夜食を食べて来るように促した。
どうやら、古文の漢字と敬語表記につまづいているらしい…。
「あの、さっきはゴメンね。失礼な事言って…」
「いえ。俺もデカイ声出したんで…その…すいません」
火神が、チラッと視線だけこちらに向けた。
「か、火神がさ、敬語苦手なのはわかるよ。英語にはそうゆう表現の仕方は無いもんね」
「そうっす」
「でもさ、私達には拙いながらも使おうとするよね。どうして?」
「それは…先輩だし、ソンケイっつーか、なんつーか」
「そう…だよね。敬語って、相手を敬う言葉。敬意を示す言葉なの」
今度は顔を起こして、背筋を伸ばして、こちらを見据える。
「い、今はテストの為だから、文法とか活用とかを覚えなきゃいけない。でも…元は言葉だから。話し方で、相手に『尊敬してます』って伝えたいだけだから。…はじめから、そんなに苦手意識持って毛嫌いせずに覚えてみたらどうかな?」
教えるというよりは説き伏せる形になってしまったが…
「分かったっす」
相変わらず不機嫌そうだけど、どうにか火神がペンを握ってくれた。
「調べてもどうしてもわからなかったら聞いて」
と教科書を手渡して、火神の机から少し離れた。