第30章 気兼ねる
「カントクと陽向は帰れよ。もう遅い」
日向が言う。
「でも…」
「私達も残るわよ」
「じゃあ、カントクは俺や日向が送れるからともかく、陽向は帰った方がいい」
今度は伊月だ。
「そんな。どうして?」
「方向が同じヤツが居ないだろ?誰が送る?今より遅くなると『途中まで』ってわけにもいかないし、こんな事は言いたくないが陽向は危なっかしい。まだ人通りの多いうちに帰るべきだ。それとも、水戸部に遠回りさせる気か?」
そう言われると、なんとも言い返せない。
チラッと凛を見た。
『気にしなくていい』と首を振っている。
私に気を使っているのがわかる。
そうだよね。ただでさえ…いつもより遅くなるのに、私の為に遠回りなんかさせられない。
「わかった」
頷いて、バッグを手に取った。
ここまで言われて、それでもこの場に残ろうとするのは私のわがままだ。
わかってる。わかってるけど…。
役には立てない悔しさと、
自分だけ帰されるという疎外感からか、
なかなか、気持ちは納得できなかった。
それでも…
留まる感情を押し込めて、
「皆、頑張ってね。お先に」と笑って、後ろ手に扉を開く。
廊下に出て、ガチャリと扉が閉まる音がした後で
「ちょっと言い方がキツイわよ」
「ああでも言わなきゃ帰らない。遅くまで残して陽向になんかあったらどうするんだ?」
という、リコと伊月の会話が聞こえた。