第24章 彩る
皆から離れた場所で歩みを止めた水戸部がペコペコと頭を下げている。
きっと、さっきコガがいろいろと聞こうとしていたから、『ごめんね』と言っているんだろう。
「気にしてないよ」
そう言うと、顔を上げて、ニコリと笑って、スッと目の前に左手が差し出された。
『帰ろう』と、
『家まで送るよ』と言われている。
なんとなく、なんとなくなんだけど、
いちいち本人に確認しなくても、水戸部の表情から彼が言いたい事を分かるようになってきた。
もちろん、コガみたいに以心伝心は無理だけれど…。
「うん。帰ろう」
右手が包まれる。
あたたかくて、大きい手のひら。
私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる彼は本当に優しい。
「クリスマスだし明日はケーキ焼いて持って行こうかな?」
また、ニコリと水戸部が笑った。
「あっ、でも、日向って甘いもの苦手だっけ?」
今度はコクコクと頷いた。
「そっかぁ…」
ちょっと残念だ…。
『どうしたの?』と彼が首を傾げる。
明日のクリスマス。
水戸部に喜んでもらえそうなプレゼントがあまり思いつかなくて…。
誕生日プレゼントで悩んだばかりだから、余計にそう思ってしまうのかもしれない…。
だけど、一つだけ思いついた事があって、だから差し入れに紛れて実行しようと思っていた。
でも、やっぱりサプライズには、少々無理があるのかもしれない…。
「あ、あのさ…。水戸部の方が上手かもしれないけど、私がケーキ焼いてきたら食べてくれる?」
私のうぬぼれでなければ『もちろん』と彼は優しく頷いてくれた。
「あと…あとね、明日の水戸部のお弁当、私に作らせてくれない?」
今度は目を見開いた。
「本当はサプライズで持って行くほうがいいとは思ったんだけどね、水戸部はいつもお弁当持ってるでしょ?無駄にしちゃ申し訳ないと思って…。それに、迷惑だったら無理にとは言わないんだけど…」
思いついたのはいいんだけど、水戸部は料理上手だからあまり自信がなくて…。
下を向く私の頭に手のひらが乗った。
ヨシヨシと少しあやすように優しく撫でられる。
顔をゆっくりあげれば、穏やかに笑う彼。
『嬉しいよ』『よろしくね』
そう言われている気がした。