第3章 神の率いる百鬼夜行
宿題があるから、と言ってリクオは立ち去った。紫苑は特に動く気配もなく、足を崩して幾分か楽に座っていた。
「こんなとこにいたの。」
「…若菜……さん。」
振り向くと若菜が立っていた。紫苑のとなりに自分も座ると、腕を伸ばし背伸びをする。
「お母さん…でいいわよ。」
「…でも…」
戸惑う紫苑に、優しく声をかける若菜。
「…幼いころ、お父さんとお母さんを無くしたんですってね。……つらかったわね。ずっとつらかったでしょう。」
「…もう、慣れました。両親の記憶なんてほとんどないし、あるのは、じいちゃんと……」
紫苑は一瞬戸惑った。この人は鯉畔を亡くした人。名前を出していいのか。と。しかし、若菜は紫苑の気持ちとは反対にきっぱりと言い切った。
「鯉伴おじさん。でしょ。気にしなくていいのよ。そりゃぁ、さびしくないっていったらウソになるけど紫苑ちゃんと比べたら辛いなんて言ってられないわ。…あの人はとても妹思いだったの。初めて私にあなたのお母さん…菫さんを紹介してもらった時は今でも忘れられないわ。自慢げにね、俺の妹だ。どうだ、別嬪だろ?って。」
懐かしそうに話す若菜。紫苑は一瞬、リクオが羨ましく思えた。
リクオにはこんなに優しい母親がいる。