第2章 新たなる出会い
夜。
紫苑は庭に生えている大きなしだれ桜の木に一人、座って月を見上げていた。
「おい。」
ふと声をかけられ下を見ると、リクオがそこにいた。
時はすでに夜。
リクオはすでに夜の姿へと変化していた。
「ここに来れば?」
紫苑が声をかけ手招きをするも、リクオは遠慮するように腕を組みながら幹にもたれかかった。
紫苑に話しかけようと上を見上げると、突如風が吹き、桜の花びらが紫苑を覆い隠す。次の瞬間、よこから袖が引っ張られた。
「ほら、月が綺麗よ。」
言われるがままに木に登り、月を見上げる。
紫苑の目は今はしっかりとリクオをとらえていた。
「夜になるとその姿なんだ。そっくりだね…ぬらりひょん。」
「お前はどうなんだ?その姿は、聖獣だろう?」
「私には聖獣の血とぬらりひょんの血が混ざってるんだから二つの姿を持つの。せっかくだし…」
昼間と同じように、紫苑の周りに花弁と靄の渦が生まれる。
靄が晴れてあらわになった紫苑の姿は先ほどの、銀色に尻尾と髪を持った聖獣の姿ではなく、リクオと同じような上が白で下が黒の長い髪をたらし、整った美系の顔。リクオのよりかは明るい、いうなれば水色の着流しに深緑の上掛け。そしてリクオと全く同じ赤い瞳。顔の左目の下には、涙のような黒い模様。
「…これが、私のぬらりひょんとしての姿。」
「まったく、いろいろと隠し事が多い奴だな。」
「忘れないでよ、私にも人間の血が流れてるってこと。…あなたは疑わないのね。私があなたの従妹だということに。」
「従妹なのに疑う理由があるか。…それとも、それを実証できるものがほしいと。」
リクオが問うと、紫苑は素直にうなずいた。
まるで、苦しいものを吐き出すかのように見えた。
紫苑自身にとっては、リクオとは従妹であると知っているものの、幼き頃の記憶は薄れかけていた。
木から降り紫苑を手招きすると、素直についてきた。