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D.Gray-man 歪に歪んで

第1章 巻き戻しの街




「私も、よくあります」

「え?」

幼い頃から教団で暮らしてきた私は、周りの人たちだけが私の基準になっていた。生まれてから少しの間は街に住んでいたらしいけど、記憶なんてこれっぽっちもない。


「私、小さい頃からすごい人たちに囲まれてて、あの人たちみたいに出来なきゃいけないんだって、それが普通だと思ってた」


歳が近い神田やリナリーはもちろん、他のエクソシストのように強くなくちゃって毎日毎日、たくさん鍛錬していた。

「でもやっぱり人って向き不向きがあるでしょう?だから、みんなどんどん先に行ってしまうの。私に出来ないことをどんどんこなしてしまうの」


まだ任務に行かせてもらえない私を置いて、神田たちはどんどん外の世界を知っていった。
それが羨ましくて、悔しくて、毎晩泣いたりしたっけ。


「悔しいよね。悔しくて無茶苦茶に頑張ってみたりしたけど、やっぱりダメなんだよね〜。本当なんでだろうなって…毎日…」

今でも思い出す。あの時の気持ちはこの先もずっと忘れないと思う。


「でも、大丈夫なんです。あの時の気持ち忘れたわけじゃないけど、なんか、大丈夫なんですよね」

よく分からないという顔をするミランダ。
でももうさっきみたいな悲しい顔をしていない。


「今はつまづいても出来ないこともあるよねって認めるようにしたんです。ミランダ、何一つ出来ない人なんていないんですよ」


「でも…」


「だってきっとミランダだけですよ、この街の異変に気付いてる人」

毎日同じ日を繰り返してることに気づいていたら、いつもと違う人が街にいることに気づいてもいいはず。でも声をかけてきたのは彼女だけだった。


「だからこの街を救えるのはあなただけですよ。一緒に明日に行きましょう。あなたの知っていることを教えてください」


「…ありがとう、ハルちゃん」


ミランダはまた俯いた。彼女からポタポタと何滴か涙が零れ落ちた。


「じゃあとりあえず手当てしましょう!それから話、聞かせてください」


ずっと流しっぱなしだった水道を止める。
ミランダの手は冷えすぎてしまっていた。

冷えすぎた手にはまだ何滴か涙が零れ落ちていた。



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