第1章 巻き戻しの街
時計とテーブルとベット。
あとは少し家具があるだけの質素な部屋に案内された。
「そこに座ってください。今何か飲み物…」
さっき出会ったクマの酷い女性は、ミランダというらしい。
「あ、お構いなく」
そう言ってみたけど、ミランダはもうキッチンでお湯を沸かしていた。でもそのキッチンから微かに悲鳴と、何かが爆発するような音が聞こえるのは気のせいだと思いたい。
適当に椅子に座った。
壁際には大きな古い時計がある。
カチコチと針は通常通り進んでいる。
しばらくしてもミランダがキッチンから出てこないので、様子を見に行くと、彼女は床に座り込んでいた。
「あの、ミランダ?大丈夫ですか…って、え?!火傷したんですか?」
キッチンにはお湯がぶちまけられていて、ミランダの手は真っ赤になっていた。
「あ、ハルちゃん…ごめんなさい、私…」
「とりあえず冷やしてください!」
彼女を立たせて水道の水を手に当てて冷やした。
真っ赤になって腫れている手は、少し皮がむけて痛々しい。
「火傷したらすぐに冷やさないとダメじゃないですか。跡でも残ったら大変ですよ」
ミランダは俯いたままで、表情がよくわからない。
「…あの、お茶はもう大丈夫だから落ち込まないで?」
顔を覗き込むと、どこか悲しそうな、笑っているような難しい表情をしていた。
「…やっぱりダメね、私」
ミランダはそう言って鼻で笑った。
「何をやらせてもダメなやつっているでしょ?私ってそれなの」
やっと顔を上げてくれたけど、その顔はやっぱり悲しく笑っていて、こっちまで胸が苦しい。
「昔から同級生の背中ばかりを見ていたわ。どんなに頑張ってもみんなはどんどん先に行ってしまうの。お湯すらまともに沸かせないなんて笑っちゃうわよね」
「ミランダ…」
「出来ないってわかっているのに頑張っちゃうの。どうせ出来っこないのに。本当、馬鹿みたい」