第1章 巻き戻しの街
「それでいつからこんなことに?」
ミランダの手当てをしながら椅子に座り、この街の奇怪な出来事の経緯を聞いた。
聞くところによると何度も失業していたらしいミランダ。
そんな彼女がこの部屋に置いてある時計に出会ったのは今から数ヶ月前。誰が回しても動かないはずの時計は、ミランダがネジを回すと大きな音とともに動き出したそうだ。
何をやってもダメだった彼女を唯一認めてくれたと思い、購入したという。
時計を買ってからも失業は続き、ある日何の気なしに言ったある言葉ーーーー
「もう明日なんて来なければ良いのに」
それがきっかけだったらしい。
「その日からずっと毎日同じ日の繰り返しなの…」
「街の異変に気付いた人には会った?」
「いいえ。私だけなの。毎朝お隣が喧嘩をして、子供達にウンコを投げられて」
「ウンコ?」
「そのあと馬車に泥水をかけられて帰って寝る。これが毎日」
彼女が言ったウンコがとても気になるが、話が進まなそうなので気に留めないでおこう。
「でも今日馬車に泥水をかけられる前、化け物に襲われて、そしたらあなたと同じ黒い服の子が私を助けてくれたの!!!!ねえ、助けてくれるんでしょ?!早く私を解放して!」
「落ち着いてミランダ!その黒服の子っていうのは男の子?」
「どうかしら…。そこまでは見てなかったわ。必死だったんですもの。でも普通顔くらい見るわよね…。ああ、私何やってもダメなんだわ…」
また自己嫌悪に陥り始めた彼女を宥めながら、考えた。
バケモノってたぶんアクマのことだよね。
じゃあやっぱり、あっちもこの街の異変に気付いてイノセンスを追ってきたんだ。
だとしたらやっぱりミランダとイノセンスが関わってる可能性が高いし、そうじゃなくてもこの街にイノセンスは必ずあるはず…。
「ねえ、ミランダ。今から一緒に…」
私の仲間を探しに行かない?って…。言おうと思ったのだけど…。
「ミランダ?」
彼女は俯いたまま反応がない。
また自己嫌悪に?と思ったのもつかの間。
彼女はいきなり立ち上がるとベッドに行き寝てしまった。
「え、ミランダ…?」
行動が読めずに困惑していると、置き時計から大きな音がなった。
時計に吸い込まれるように、文字盤のようなものが集まった。
初めて見る魔法みたいな現象に頭がついて行かない。
「…時間が巻き戻ってる?」