第1章 巻き戻しの街
『ハル、任務だ。すぐ室長室に来てくれ。』
朝方、食堂前ですれ違ったリーバー班長にそう言われ、急いで室長室に向かった。
ドアを開けると中にはもうすでにリナリーとアレンがいた。
「あ、二人とも」
「ハル!おはよう」
「おはようございます」
二人に挨拶を返して部屋に入った。
いつも通り踏み場のない部屋。なんか、いつもより散らかってない?
足の踏み場がないのは通常だとして、ソファや机、至る所に分厚い本が積み上げられていた。
「やっと揃ったね」
声がした方を見てみると、大きく積み上げられた本の中にやつれたコムイさんが埋まっていた。
…何してるんですか。
「今日はこの三人で任務に行ってもらうよ。イノセンスがあるらしい街があるんだ」
はいよ、とこれまたやつれたリーバー班長に資料を渡された。
もらった資料は薄っぺらく、一、二ページくらいしかない冊子だった。情報が少ないってことかな?
「たぶんね。たぶんあると思うんだよね、イノセンス」
もらった冊子を開くと巻き戻しの街、と小説のタイトルのようなものが見えた。
「といっても、たぶんだからね、たぶん。期待しないでね、たぶんだから」
ずっとたぶんたぶん繰り返すコムイさんに目をやると、ズサアと本は崩れかけていた。
そんなことも気にせず、倒れる本の雪崩に巻き込まれながらも、まだたぶんたぶんと言っているので、さすがのアレンもツッコんでいた。
「なんてゆーかさ、巻き戻しの街があるみたいなんだよね」
もう本に挟まって寝転がってるコムイさん。
「巻き戻る?」
「そう、たぶん時間と空間がとある一日で止まって、その日を延々と繰り返してる。リーバー班長ー」
「ウィース…」
死にそうなリーバー班長が返事をしながら震える手で資料を持っていた。
「調査の発端はその街の酒屋と流通のある近隣の街の問屋の証言だ」
もう一度資料に目を通す。ってあれ?なにこれ。
もらった冊子は開いたところに"巻き戻しの街"とだけ書かれていて、次のページから最後まで白紙だった。
…疲れてたんだな。
「そして調べて回収!エクソシスト単独の時間のかかる任務だ…。以上」
疲れ果てたコムイさんにそう告げられた。冊子に気を取られていたら説明が終わっていて、気がついたら二人と汽車に乗っていて、冒頭に至る。