第6章 雄英体育祭
「だが…試験開始後、俺はすぐに察した。自分の個性を最大限に生かした戦術、そのための道具…あんたの戦闘スタイルを目にした瞬間、あぁ…俺落ちたなって。あんたなんて、全然大したことない。目立つ個性じゃないし、倒したロボットの数も人並み。だが…そんな個性のくせに…あの場にいた誰よりも不利なその個性で…あんたは雄英に受かった」
私は思わずポカンとしてしまった。予想外の言葉に不意をつかれた私を置いて、心操くんは猫を撫でながら口を開く。
「俺は当然ながら試験に落ちた。元々、受かると思ってなかったし、記念受験ってのも悪くない。だが、あんたのせいで俺は気づいたんだよ。俺はあんたみたいにきちんと、自分の個性と向き合ったのか?って」
私は黙って彼の視線を受け止めた。彼の目からはヒーローへの強い憧れを感じ、私は静かに目を閉じた。訪れた暗闇に浮かぶのは、1人の友人の顔。その友人と目の前の彼が、不意に重なった気がした。
「俺はヒーローになりたかった。沢山の困ってる人たちを救うヒーローに。だが、もう止める」
私は目を開け、彼を見た。彼の瞳が私に向いており、彼は猫を撫でる手をいつの間にか握りしめていた。
「俺はヒーローになる。あんたも超えるヒーローに。俺だってヒーローに憧れたクチだ。この雄英体育祭で…それを証明する」
クロシロがピクリと反応を示す。私はその背を黙ってポンポンと叩く。
「……なんで、その話を私に?」
シロクロを抱きながら、私はそう彼に問いかけた。腕の中でクロシロが鳴いた。
「…雄英のヒーロー科にいるあんたが、こんな所で俯いていたら示しがつかねぇだろ」
そっぽを向く心操くんの膝に、クロシロが飛び乗った。
「つまり、元気出せってことかにゃ?」
私は思わず吹き出してしまった。私は君がなりたがっているヒーローを殺すヴィランなのに!そんな私を慰めて…さらには私を超えるヒーロー?腹をかかえて笑う私に、心操くんは驚いた顔をした。
「ごめ…でも……心操くん…ツンデレすぎ」