第5章 雄英、調査期間
気づけば私は、八木さんの胸の中にいた。頭をぐちゃぐちゃにされたかと思ったら、今度は後ろから頭を抱えるように、八木さんは自分の胸に私の頭を押し付けたのだ。
「……八木さん?」
「何があったのか私は分からない。だがしかし、話を聞くことは出来るし、こうやって胸を貸すことも出来るだろう。君はひとりじゃない。それは覚えておいてくれたまえ」
「…………」
その言葉は……私が嫌うヒーローのような台詞だった。……ヒーローとは程遠い体の八木さんがヒーロー?なんて馬鹿なことを。私は笑った。
「ちょっとくさかったね」
「ええ、少し。でも……ありがとうございます」
あったかいな。初めて感じた居心地良さだった。ヴィラン側だと言っても、あっちに私の居場所はなかった。黒霧さんや先生はよくしてくれたけど、所詮他人。顔は笑っていても……心の中ではあの生活は退屈だった。一緒にいたいとは思わなかった。
「犬猫山くん?どうかしたのかい?」
でも、なんでだろ?この人は……今まで見たヒーローの中でこの人が一番ヒーローっぽいと思った。
「いいえ。なんでもありませんよ八木さん」
なんて馬鹿なことを考えつくものだ。私は笑って、その考えを再び振り払った。